事故から3ヶ月以上が経って、お薬を飲まなくても電車に乗れるようになりました。
先生は「事故の記憶が、自分の中で普通の記憶と同じように整理されて、突然泣き出したりすることもなくなりますよ」とおっしゃっていたのだけど、こうして普通に電車に乗れるようになったのは、そういう頭の中の整理が進んでいるということなのかもしれません。
電車のことを思い出して泣いたり、苦しくなったりすることもなくなりました。
電車に乗っていても、以前は現場にさしかかる前には必ず気になっていたのが、最近は気にならなくなりました。
私の心の中で占めていた事故の割合が、徐々に減ってきているのだと思います。
もしかして、もう完治したのかもしれない・・・そう思っていた先週。
地下鉄からエレベーターを昇って、JR大阪駅の前に出ると、駅はただならぬ雰囲気に包まれていました。
「電車が遅れてんねん」と大声で電話している若者。駅員に説明を求めている人。時刻表を確かめようと電光掲示板に見入る人たち。
何がどうと考える間もなく、涙があふれ出ました。
何を考えたとか、何をどう思ったとかいう訳ではなかったのに、その光景を目にした途端、涙があふれてきたんです。
泣きながら立ち尽くす私を現実に引き戻してくれたのは、構内アナウンスでした。
「甲子園駅近くでの落雷により、ダイヤが乱れています・・・」
あぁ、そういうことなんだ・・・。
少しずつ頭が動き出して、落雷で電車がダイヤが乱れたから大阪駅も影響を受けたんだという事実を認識しました。
頭はちゃんと理解して、納得して、でもどうしてだか心は納得してくれませんでした。
どうしても涙が止まりません。
自分でも訳が分からなくて、泣きながらあきさんに電話しました。
「仕事・・・中にごめ・・・ん・・・大阪・・・駅・・・落雷で・・・電車が・・・遅れて・・・人が・・・いっ・・・ぱい・・・。」
泣きながら話す私に、あきさんはうんうんと聞いてくれました。
「落雷はよくあることだからね。大丈夫」
そういってくれました。
私も頭では分かっているのです。
「雷・・・はだい・・・じょう・・・ぶ。こわ・・・く・・・ない。」
そう、落雷で電車がどうかなったんじゃないかと思ってるとか、それが怖いとかいうんじゃないのです。
何で涙が出るんだろう?
雷は怖くない。でも、大阪駅に人がいっぱいいて、携帯で電車が動かないって電話してる人がいて、駅員さんに事情を聞いてる人がいて。
それを見たら涙がでてきたのです。
雷のことは泣き出した後に聞こえてきた情報で、だから、それが原因で涙がとまらないんじゃなくて。
事故があった日。
会社で事故のことを知って、でも信じられなくて大阪駅まで行って。
地下鉄からエレベーターを昇って大阪駅の前に出たら、人がいっぱいいて、携帯で電車が動かないって電話してる人がいて、駅員さんに事情を聞いてる人がいて。
私にとってはウソだって思いたかった事故が、本当のことだったんだって痛感されられた瞬間でした。
あぁ、今あのときの状況が知らず知らずのうちにフラッシュバックして、心がひとりでに反応してるんだ。
そう思いました。
心のことなので、それが正解かどうかは分かりませんが、今の混雑はあの日と同じものではないのだ、落雷のせいであって、全く違うものなのだ、と思うと、少し心が落ち着いて、涙も止まりました。
ホームの隅で、落ち着くのを待って、電車に乗りました。
学校がお休みの期間中だけ通勤で読んでいる本を取り出して、読み始めました。
大丈夫。
いつもと変わらない帰宅の光景へと変わっていきました。
自分ではもう大丈夫と思っていたけれど、まだどこかで少しひきずっている部分があるようです。
心の問題に"完治”というのがあるかどうかは分からないけれど、焦らず、じっくり付き合っていきたいと思います。